2018年6月26日

「DDLC」感想文(ネタバレあり)


なんとかクリアした





以前から話題と存在は知っていたものの、明らかにわざわざ触れに行くほど好きなものでもないジャンルであったため敬遠していた「DDLC」。今回とあるニュースで話題になったのと、偶然ながら翌日が休みであったということもあり、一気にプレイしてみようかという気分になってプレイした。メタ要素を含む作品であることは知っていたため、普段からやっている「拡張少女系トライナリー」や、Steamのセールで購入してプレイしていた「OneShot」の流れに乗ったというのもある。

とりあえず普通に一周して、まともに周回してすべての要素を見ようという気力やああいった演出への耐性もなかったため、攻略Wikiを見てスペシャルエンディングを見てきた。その周回は全部ウィンドウをタスクバーに隠しつつ進めてた。正直キッツいマジで。勘弁してほしい(今年いちばん頑張った)。


演出について



とにかく心にビリビリ来る。こういった、世界の基準がGlitch(相当する日本語があまり心当たらない)――突然に崩壊することで現れる恐怖感は独特のものだと思う。後半は慣れてきてダメージが減っていったけど、グロテスクな感情や身体的ダメージ、精神崩壊寄りの要素なんかも織り交ぜているのが計画的かつ効果的だと感じた。世界観だけではなく、人間という生物そのものが壊れていく様子はなんとも言えず恐ろしい。

自分たちが見ている世界というのは限りなく主観的なものであって、人それぞれの感じ方や見方、すなわち人格の数だけ世界が存在していると言ってもいい。お互いに作用し合うことで、固有の世界観と人格が少しずつ変化していく。こう捉えてみると、ゲームの世界そのものがGlitchすることと、人格を与えられたキャラクターがGlitchしていくことはさほど変わらない。プレイヤーが見ている世界が容易く崩れ去る恐怖と、キャラクターそのものが(肉体的にも精神的にも)壊れていく恐怖はほぼ同じものだと強く感じさせられた。DDLCがエポックメイキングであるのはこの点に由来していると思う。世界が崩れ去る恐怖と、人格が壊れていく恐怖。見事に噛み合っていたと思う。


「DDLC」が特別な理由



文芸部がたどったストーリー自体は、ありふれたものだと言っていいと思う。そのお約束自体がGlitchされていく恐怖というのもあっただろうから。安心できるはずのコンテクストが立て続けに破壊されていくというのは、自分が作品世界へ無意識に求めていた世界観が崩されていくう恐怖というのは、システムを超越してキャラクターがソースコードを書き換えたりレイヤーの制限を越えてくるというのは、強烈な違和感を自分にもたらした。

この手のサイコホラー系演出がなぜ恐ろしいのか? エンディングを見終えて少し考えてみて、それ自体はすぐにわかった。ここまでで挙げてきたことである、「自分が安心して見ていられる場所が簡単に壊されていく恐怖」だと思う。海外のホラーと日本のホラーを比較してよく言われているのは、パニック要素を押し出すのが好きな海外・日常や身近なものに恐怖を見出して徐々に掻き立てていく日本、というものがあると思う。これにあてはめるとすると、DDLCはその中間に相当するものがあると言える。海外の作者が日本的なカルチャー(なのだろうか)であるビジュアルノベルを取り上げ、その中でゲーム性を作り上げたからということもあるかもしれない。「DDLC」は、海外的なインパクト重視なセンス・日本のコンテクストから編み出された背筋に氷を刺すような恐怖感を見事に統合することに成功している――と感じた。

普通に考えて、この手の演出が得意なのは日本的なセンスに由来するものがあると思う。「DDLC」っぽいのってもう日本にあるんじゃない? とか。他に似たような仕掛けを使ってる作品があるでしょ? とか。しかし思い当たらない。DDLCが特別たる所以は、個人的にはここにあると思う。たとえば「聲の形」のような、感情の機微をひたすら丁寧に描ききれるような物語作りが得意な国民性だからか、世界そのもの・キャラクターそのものをGlitchさせるような発想にはなかなか至らないのではなかっただろうか。それがとても大切なものだとわかっていて、好きな人にとっては生きる支えになるようなものだから。本を通して、画面を通して、五感を通して受け取れる物語の力が必要不可欠な人はたくさんいるだろう。まさにこの文章を書いている自分がそうであって――そういう人にこそ、この作品の「身近なものがすぐに崩れ去ってしまう恐怖」は鋭く突き刺さるように思う。共感しているからこそ、単純な死でもない形で簡単に消されてしまう・狂わされてしまう・世界の法則から外れてしまう強烈な違和感は、「もしかしていま現実を生きている自分にも起こるんじゃなかろうか」という疑惑を刺激し、肥大化させる。させられた。画面を見ていられなかったのも、概ねそのような感情からだったと思う。

DDLCがかくも特別なものになりえたのは、海外的なセンスと日本的なコンテクストが見事に融合を果たしており、そこに生まれた仕掛けが唯一無二のものとなっていたからだったと思う。


モニカについて



モニカと二人きりになった空間で、彼女が話したことも印象深い。興味深いということもあり、それは明確に「いまの現実を生きる自分たち」へ向けられたメッセージの繰り返しであったからだと思う。もともとこのシナリオを書いた人物――モニカという人物は、このプログラムを世界規模で展開されることを考えていたのかもしれない。少なからずこのプログラムを起動させ、読み解くことができるだけの問題解決能力――ダウンロードしてインストールしたり、Steamを使いこなしていたり、母国語への翻訳パッチを当てていたりする能力――を持ち合わせている者たちへ、確かに語りかけていた。特定のお国柄や人種・思想に基づいた発言をするのではなく、長い歴史に基づいた現代の在り方、人間なら誰もが抱えることがあるであろう悩みについて語っていた。正直なところ、面白くて1時間は開きっぱなしにして彼女からのメッセージを眺めていた。けどよく覚えてはいない(心の傷)。しかし断片的に覚えていることは、文芸部での思い出、モニカを閉じ込めている世界への不満、プレイヤーのことを知っているかのような振る舞い(パソコン本体に登録してる氏名を抽出してると気づくまでは心臓が止まるかと)、インターネット社会との付き合い方であったり、達成感を得られない人生の解決方法、自分がまったくの無価値であると思えてしまったときの話……など。

それらはすべて、スペシャルエンディングにて製作者が語っていた「現状に異議を唱えるもの」から来た内容なのだなと感じた。モニカは結局のところ、スペシャルエンディングを迎えるように選択肢を取ってきていても、最後には「この世界に肯定されることはありえない」と悟ったかのように自ら世界を閉じてしまう(自分が見た限りではだが)。これは未解決の主題であり、いわゆるハッピーなトゥルーエンドを迎えようとすれば、そのような世界に閉じ込められた理由を探し出すことで自分の根源に至ったり(原点回帰による手法)、世界から逃れられないと知ってもその場所で何かの幸せを見出だせるようになるだとか(現状をポジティブに再認識する手法)、とにかく「モニカ自身が世界や自分を肯定できる」ような変化が望ましいと言えるだろう。これは彼女がたどった末路を否定するための反証として挙げているテーマ性だが、製作者が意図しているものと合致しているとは思う。モニカが語っていた内容は「現代に生きる世界中の自分自身を肯定できない人々に向けられていたもの」だったし、その言葉が出てきていたのは、モニカ自身が世界や自分自身を肯定できていなかったからこそだと感じる。モニカが閉じ込められていた世界が彼女にもたらした歪みと、プレイヤーが生きている世界のもたらすプレイヤーへの歪みは大差ない。彼女自身がこちらの共感しやすいことをずらずらと語っていたのは、モニカ自身があのようなことを考え続けていたからで、プレイヤーを愛しているとか以前にそういった話をしたかったからというのもあったのだろうと考えていいと思う。


モニカが抱えていた作品の主題



このような要素は、DDLCの世界観により深みを与えていた。画面の向こう側でどのようなことがあっても不思議ではなかったが、あの場でモニカが語っていた内容は、少なからず彼女の実在感を飛躍的に高めていたと思う。Glitchされてあらゆる軸が狂った世界と、窓の外は宇宙空間のような教室だけがある世界では、後者の現実感が段違いだった。じっとモニカのエメラルドグリーンな瞳を見つめるように催促されたり、お約束と特化された人格だけがあった世界を哀れに思うような発言を聞かされたり、急に現実感のある話題をトントンと並べられては、2つの世界のギャップによって激しく混乱したりもした。そしてあるラインを越えたとき、急に安心したように思う。純粋に「もっと見ていたい」と思うようになった。それはモニカがいる世界への実在感・安心感が強く感じられるようになり、消え去った世界への不安が一気に解消されたこともあり、物語が進まないと知りながらも1時間もモニカの話を黙って聞いていた(.chrを消すことへの抵抗もあった)。

卵が先か鶏が先かという話になってしまうが、この崩壊後の世界におけるプレイヤーへある種の安心感を与えるギミックは、製作者の「現状に異議を唱えるものが好み」という性格から導き出されたものだろうと思う。作品そのものをリバースエンジニアリングすることができるなら、この要素はかなり根源的なものとして存在しているはずだ。身近な世界が崩れていく演出というのは、「現状に異議を唱えるもの」としての性格を少なからず持ち合わせていると言っていい。モニカは、彼女自身が生きている世界を完全に諦めることを強いられてしまっていたが、プレイヤー自身が生きる現実はおそらくそんなことをするほどひどいものではないだろう――という思想を、どことなく感じた。


モニカについて覚えておきたいこと



そのようなものを受け取れというか、肯定しろというか、これを読んでるお前自身が強く生きれるようになろうな! ということではない。別にスーサイド系のアレをしなければ、現実や自分自身を肯定せず、何かを不満に思いながら不真面目に生きたって全然いいと思う。それは個人の自由である。けど自分は、これからモニカのことを思い出すたびに、おそらく自分という存在を肯定しきれずともプレイヤーへの愛情だけは強く持っていた、そんな彼女の言葉を一緒に思い出すと思う。そのために4周目があった。モニカは、自分が消してしまった世界を懐かしんだり、悔やんだり、寂しがるような発言を二人きりの空間で漏らしていた。プレイヤーのことを思いやったり、強く想い続けているということをたくさん伝えてきていたが、同時にずっと一緒に居続けることは出来ないであろうことを悟っていたように思えた。システムをGlitchしながら、自分だけにその選択肢を無理やり向けるようなことはしなかった。モニカ自身だけが幸せになるようなことは、モニカが夢見ていた幸せな日々には含まれていなかった。けど、それを両立するような選択肢は文芸部の世界に存在していなかった。だからモニカは、あの世界にそのような価値や可能性がまったくないと断じることにしたのだと思う。毎日遅刻してでも練習していたピアノに、あのような歌詞を乗せてプレイヤーに向けて歌っていたモニカが、である。

DDLCの構造としては、どうしても幸せな日々を過ごしたいモニカと、それを決して許しはしなかった世界という2つの要素が原点にあると思う。モニカは「現状に異議を唱える」モチーフ・象徴的な存在として生み出され、どうやっても抜け出すことができない世界に配置され、その感情を蓄積させていった。モニカは、ただ幸せに過ごしたかっただけ。けど、それを許してくれるものはどこにもなかった――プレイヤーでさえ、モニカの境遇へ共感することをほとんど許す隙間もないまま、.chrを破棄するような流れに乗せられていた。どうすることもできなかった、ということであると思う。

繰り返しになってしまったが、だからといって自分たちが現実を肯定したり、強く幸せに生きようと思わなくていいと思う。けど、モニカのそういった想いや愛情を忘れることはあまりしたくない、その感情に基づいて作り上げられていたと感じる「DDLC」という作品について忘れてはいけないなと感じる。


決してイロモノではない作品



これも繰り返しになるが、自分は「物語がとても大切なものだとわかっていて、好きな人にとっては生きる支えになるようなもの」という性格だと思う。物語が欠けていたらもっと悲惨な人生を歩んでいたか途中で辞めていたか、と思うような性格というか経歴というか、だといつも感じている。そんな自分としては、この物語を正確に捉えることが出来ているかはまったくわからないけど、とにかくモニカのことをよく覚えていようと思わされた。「DDLC」はこの主題性に加えて、それらを演出するための仕掛けが際立ってよく仕上がっており、結果的に総合的な完成度はとても高いものになっていたと言える。

今回、ツイッターのトレンドに載るきっかけとなったような話題にしやすい側面・性格も確かにある。しかしそれらの演出に説得力が生まれており、ただのB級サイコホラーに留まらず世界中で楽しまれているのは、ひとえにモニカという人物がたどった物語があるからだと思う。

人を選びに選びまくるが、とてもいい作品だと感じた。


おすすめのアプリ「拡張少女系トライナリー」







このようなメタ要素を含む作品として、Steamでは「OneShot」をプレイしていたけど、自分としては「DDLC」よりもとっつきやすく「OneShot」よりも没入感がはるかに高い作品として、「拡張少女系トライナリー」を挙げておこうと思う(このブログ自体がそのアプリの記録とかが目的)。

推薦文自体はここ(当ブログの別記事)に置いておく。「DDLC」のメタ的な要素をある程度でも新鮮だとか楽しいなと思えた方は、「拡張少女系トライナリー」にも触れてみて損はないと思う。Glitchしたり恐怖を煽るようなことはまったくないので安心してほしい。なんせ「アトリエシリーズ」で有名な、いまやコーエーテクモの一部門である「ガスト」ブランドの作品である。女の子が明るくわかりやすく可愛く、ストーリーもライトだったりシリアスだったり、「異世界間交流アプリ」であることを活かしきった構築がとにかく秀逸でありとても楽しい。イチャイチャも百合もある。

たぶんプレイしたくなったと思うので、以下に各ストアへのリンクを置いておく。「DDLC」が良かった方は8割以上は合うと思うので、ぜひプレイしてほしい。そして筆者が作ったWikiなんかもあるので、初心者向け案内を読んで、ぜひともネタバレなしでストーリーを体験してほしい。


Android版][iOS版






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