2020年9月19日

劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン 感想っぽい




共有できる友人がいないので壁打ち感想会メモ。映像としては最初から最後まで意味のあるものばかりで、円盤でじっくり観ないとわからないことがたくさんある気もしますが、とにかくよかったので何とか書き出しておかないとソワソワして気が済まない感じ。何度思い出してもいい映画…。


犬の人形


一番最後に見た絵だからかもですが、エンディング後の一枚絵と、犬の人形が左側に置いてあったのが印象的でした。映画を観る前に本編を見直していろいろ予習しといてよかったです。あの一枚だけで伝わってくるものがいろいろありました。


普遍的かつ強いテーマとストーリーの結びつき


で、まず制作陣の方々にありがとうございました素晴らしかったですと言いたくなる完成度でした。100点! 恥ずかしながら原作は読んでおらずだったのですが、特典小説がいい感じに読みやすい文体でしっくり来たのでポンと注文しました。紙媒体でほしいやつ。


純粋に完成度が高かったなぁと深く感じています。最初に未来の時間軸から始まったところから、二つの時間軸を行き来していろいろなことがうまく行ったことを示唆しつつ進めていく構成を取って、強く願うことの大切さ、素直になることの難しさ、言葉にして伝えることの大切さなどなど……遡っていけば「あいしてる」にまとめられそうなテーマが様々に詰まっていました。この五文字でだいたいまとめられてしまう軸の強さがすごい。不変で普遍と公式サイトでは謳っていましたが最後まで字面負けしなかったなぁと。


視点が時間を行き来するという以外は、ストーリー自体の作りはかなりオーソドックスなもので、キャラクターやテーマの力強さが可能にしていた直球ストレートなものだと感じています。劇場版のあらすじを見て少佐が生きてるん!? となった日から、もしビターなエンドではなく、ヴァイオレットとギルベルトがきちんと再会して和解する展開になるならどうなるんだろうとよく考えていました(捻くれ…)。その中でも劇中で描かれたギルベルトが「出会わなければよかった」と自分の過去を否定する流れは思っていた以上に直球だったのですが、映像や音楽と合わせて観るとこれ以外はありえないよなぁと深く実感させられました。


冒頭の未来視点から成功している過去を何度も示唆し続けていたのは、こうした本当にありきたりで単純なことにも思えてしまえそうなテーマへの重みづけが狙いだったのかなぁと感じています。この工夫があったからこそ意義深い物語だったと感じられたというか。ずっと未来まで息づいているヴァイオレットの遺したものが、本当にいろいろな場所で人々から大切に思われていたことで、作品全体を素直に祝福したくなるような雰囲気が常に流れていたというか。こうしたソフトなストーリーで後世に名前を残すような人物がしっかり自然と描かれているのは新鮮さをかなり感じたので、どうしてこの書き方が出来たんだろうと逆算して考えてみた次第です。


これも「あいしてる」というテーマが、時代や場所を選ばずに普遍であり続ける強度を持っていたから出来たことなんだろうなーと思います。ヴァイオレットがギルベルトから授かり、何もわからない・少佐がいないとかでひたすら苦しみながらも理解したいと願い続け、やっとはっきり見つけた「あいしてる」はずっと遠い未来まで残るようなものだった……という結論にとにかく感情移入しやすい。ヴァイオレットが積み重ねてきた行いや本当にほしかったものはお金で買えない価値があるもので、時代を越えて受け継がれていく確かな普遍性があると。ヴァイオレットが少佐のいた過去や少佐のいない未来に苦しみ続けて、けれども忘れられない・会いたい・そう願い続けるしかないという危ういくらいの純粋な感情が真摯に描かれていたからこそ、このラストへたどり着けたんだろうなーと感じました。


ギルベルトとテーマの関わりについて


こうしたこと、ヴァイオレットという人物を形作るにまで大きくなったであろう「あいしてる」について考えていると、ギルベルトが(ヴァイオレットが綴った讃歌と結びつきの深い)海で話した「俺は君が思っているような人じゃない」といったニュアンスの言葉がよく思い出されます。


ギルベルトは人里離れた離島で一般人として暮らしていました。過去・名前・地位をすべて捨ててまでそうさせたのは、自分が連れ回したことからヴァイオレットの未来を奪ってしまったという重責からだと思われます。肉体的な損傷も大きかったギルベルトにはどう考えてもあまりにも重すぎます。突然現れたヴァイオレットを避けてしまうことも、ホッジンズから「ヴァイオレットちゃんが生きていたのを知ってたんだろう」と責められても(いやそれ知ったのはついさっきのことなのでは……)と可哀そうになってしまう辺りも、どれだけ拒否しても「私は会いたい」とまで詰め寄ってくるヴァイオレットを深く傷つけてしまったのも、ギルベルトという人物が情けない男だからだったとはどうしても考えられません。境遇を考えれば生きて働いているだけでも十分強い人格を持っていると思います。


ホッジンズが大馬鹿野郎と叫ぶ場面もありましたが、あれは彼自身の思いやヴァイオレットの心情を思えば当然出てくる気持ちの爆発だとは思います。ただ、あの時点のギルベルトにはあまりにも味方が少なかった訳です。テーマから照らし合わせれば、ヴァイオレットは持ち前の学習能力やある種の素直さで、ここに至るまでに様々な気持ちのありようを体得してきていました。ユリスの気持ちを的確に引き出せるドールにまで成長して、少佐に「今なら少佐の気持ちも少しはわかるのです」と発言できてしまうほど、ヴァイオレットは周囲の「あいしてる」を元手に強い女性となっていた気がしています。


ここは本当にわかりやすい対比で、ギルベルトは右腕や右目を失いながらひたすらずっと一人だった訳です。自分の過去をすっかり捨て去って、自分がヴァイオレットに対してしてしまったことを一生後悔し続けなければならず、せめてもの贖罪にとあの離島で人々の役に立とうとしていたのだと思います。それは実際にブドウ畑と道をつなぐ滑車が象徴として描かれていて、けれど贖罪の裏に自然と存在している本来の優しさが、生徒たちの口や周囲の老人たちから語られることでギルベルトの立場を保たせていました。ブドウ畑から船を見送るギルベルトに「帰れる場所があるなら帰った方がいい」と話す老人、急に現れてギルベルトへ全力で気を遣うプロツンデレのディードフリート、そして滑車がヴァイオレットからの手紙を運ぶ役割を果たした一連の場面にはとてもじんわりしました。


あれほど何を書けばいいのかと悩まれていた、ヴァイオレットからギルベルトへ宛てた手紙の文面は、おそらくあれ以上はないほどヴァイオレット自身の成長やギルベルトへの思慕であふれていたと思います。この文面がギルベルトに伝わっていく瞬間が、個人的には一番ぐっと来たシーンでした。病めるときも健やかなるときも……ではないですが、ヴァイオレットがこれまでに積み重ねてきたすべてが手紙一枚に込められていて、それがギルベルトにすべて伝わって彼自身を動かした辺りです。そんなことが出来てしまうヴァイオレットが健気すぎて切なすぎて、この映画でおそらく初めてギルベルトからヴァイオレットへの呼びかけが行われた瞬間から、すぐに船から飛び降りるまでしてしまうのが……。


ここでギルベルトが正直に「俺は君が思っているような人じゃない」のようなことを言ったりとか、「君に相応しい人だとは思えない」と言ってしまうのとか、それをヴァイオレットが言葉もなく否定しているのとか、ここまで素直な気持ちで祝福できる再会シーンは他にないだろうと確信できる説得力がありました。先に歩み寄って相手へ触れたのはギルベルトだったという辺りもわかりみが深い。あーもうこれ以外ありえないという感じでした。保護者で主人だったギルベルトが与えた「あいしてる」がヴァイオレットをどこまでも強くして、再会したときには、手紙で出来うる限りの「あいしてる」でギルベルトの方を助け上げたという構図ですね。健気で切なくて子供っぽいんですけど、それは少佐に対して未解決のままだった気持ちがずっと残っているからそう見えているだけで、実際にはずっと大人な考え方をしてるんですよね。シラフで書いてると恥ずかしいんですけど、テーマとして提示されてる「あいしてる」なのでどんどん書けます。「あいしてる」はだいたい一番強い。


社長……。


しかし長々と書きましたが、個人的にはホッジンズが一番幸せになってほしいです。彼の性格であのディードフリート大佐の一個下である中佐まで来れたのって何なんでしょう。ヴァイオレットを捉える視点のひとつとして、ヴァイオレットが立ち直っていくために最重要レベルの働きを見せてくれたホッジンズですが、なかなか自分のことは蔑ろっぽい傾向が見えるような気もするので……そうでもないだろうか……いやわからない……幸せになって社長……。


出来るなら女性視点で観てみたい


男性陣が総じて何かしら可愛らしい部分を持っていたり、特に外伝では(監督も女性だったからか)そうした傾向が強いと感じたのですが、やはりなかなか女性向けっぽいなと思う瞬間はちらほらありました。それが男性向けのオヤジくさい露骨さくらい鼻についたという訳では全然なく、ストーリー自体は理解さえできればどんな世代・性別の人にも勧められる内容でした。しかし……男性陣にもっとトキメキ(???)を覚えてみたかったり、より女性視点から捉えた「あいしてる」について深く知りたかったりします。自分は「あいしてる」についてはざっくりと「いい面も悪い面も受け入れられて、それでも触れていれば前向きになれる大事なもの」と捉えていて、多分この辺がちょっと違うんだろうなぁと思ったりする訳です。VRとかボイチェンで外見美少女みたいなのはあんまり興味ないんですが、感性の取り替えみたいな感じでカジュアルに行けるならそれは非常にしてみたいですね。何故か今回のディードフリートは萌えポイント(???)が非常に多かったので……。


あまりにもきれいな幕引き…


まだまだいろいろ考えたり書き出したり観て確認したいことはいろいろあるものの、あまりにもきれいで美しい幕引きが頭に過ぎり、何かとスッキリできるのと同じくらい寂しいのが心身に効いてきます。寝なければ……文庫本が家に届くのを楽しみにします……。

それにしても100点でした。特典小説がランダムなのはよくないと思いますけど! ディードフリート大佐Ifがかなり良くて満足ですが。世知辛い。なので本とTVシリーズと映画でもう一巡りくらいしようと思います。まだ作品世界に浸っていたい……幕引きがきれいすぎて……切ない……。ありがとうございました。